
(『千の顔をもつ英雄』上巻裏表紙)
前回6月27日に書いたとおり、久しぶりにブログを書こうと思い立ち、少しずつ書き進めていたというのが今日の記事です。
予定外の前記事挿入をしたため本文を若干手直しし、また、冒頭の画像も裏表紙に変更しました。
(表表紙は前回使用)
〔ここで、この裏表紙の「帯」に少し触れます。
挙げられている四作品を観たことがある方なら、「彼も英雄元型に依拠していたのか」と、思い返したり比較したり、あれこれと考えをめぐらせることができ、より作品を味わい楽しむことができるのではないでしょうか。映画ファンとしての想いです。
また、後に本文にも書きますが、「英雄元型」はあれもこれもと、実は私たちが知っている作品の多くに底流しているようです。〕
さて、本題は背表紙の内容紹介に取り上げられている〈スター・ウォーズ〉からです。
ジョージ・ルーカスがスター・ウォーズの物語を構想する際に、この『千の顔をもつ英雄』に大きな影響を受けたということを知り、ちょうどそのころに、自身の教育分析と並行してユングの著作を次々と読み漁っていた中で「英雄元型」について知り得ていたことが重なって、この本自体の内容についてはほぼ何も知らないまま、しかしためらうことなくすぐに入手しました。
そうして読み始めた序文の書き初め、いきなり「フロイト」の名前が目に飛び込んできてから一気に上がったボルテージは、読了まで冷めることはありませんでした。
(前回記事では、ジョーゼフ・キャンベルがユング心理学に影響を受けたと説明しましたが、私がこの著作を手に取ったときは、まだそんなことは露知らずでした)
自身の夢分析やユング理論を学んでいた当時の私に、強いインパクトを与えてくれた名著だったのです。
(後から考えれば至極当然だったわけですが)
もちろん、その影響はそれから後もずっと続いていて、何かの折には繰り返し本棚から引っ張り出していました。
そして、『100分de名著』が取り上げてくれたことが呼び水となり、この度(またしても)ブログに記す機会を得ました。
数日前、『100分de名著 千の顔をもつ英雄』のテキストを読むまでは、「英雄元型」や「英雄神話」についてなど、『千の顔をもつ英雄』から読み取った自身の考えや思いをこのブログに記していたのですが、指南役の佐宗さんが解説されている内容と重複していたものは、バッサリと省きました。
当たり前ですが、テキストのほうがより詳しく分かりやすく、理解が進みますので、まずは一読することをお勧めします。
テキストには、映画「スター・ウォーズ・シリーズ」についての記載もありますし、その他、アニメ映画の宮崎駿監督や新海誠監督の名も出ていました。
私たちに身近な、近年の日本映画においても、名言こそされていませんが、『千と千尋の神隠し』『君たちはどう生きるか』などのスタジオジブリ・宮崎駿監督の作品や、『天気の子』『すずめの戸締り』といった新海誠監督の作品などにも、「英雄の旅」、すなわち「行きて帰りし物語」の構造を読み取ることができると、私は考えています。【佐宗邦威】
私も全くもって同感です。
それから、上記文中にもある「行きて帰りし物語」という言葉。
『100分de名著』7/1第一回放送のサブタイトル(神話の基本構造「行きて帰りし物語」)にもなっているのですが、ジョーゼフ・キャンベルの名に馴染みがなくても、どこかで聞き覚えのある方もいるのではないでしょうか。
「行きて帰りし物語」という語はテキスト内で何度か取り上げられ、次のように説明されています。
(略)キャンベルは各国の神話、なかでも特に「英雄」の登場する神話を比較・分析し、共通の普遍的構造=パターンがあると述べています。それが「英雄の旅」と呼ばれるもので、一言で言えば「行きて帰りし物語」という大きな構造のことです。【佐宗邦威】
また、『千の顔をもつ英雄』(下巻)の解説には次のように書かれています。
―英雄はごく日常の世界から、自然を超越した不思議の領域へ冒険に出る(出立)。そこでは途方もない力に出会い、決定的な勝利を手にする(イニシエーション)。そして仲間に恵みをもたらす力を手に、この不可思議な冒険から戻ってくる(帰還)。―これが「英雄の旅」の基本構造である。つまり「行きて帰りし物語」である。【風野春樹】
私自身は、「行きて帰りし物語」の語を『千の顔をもつ英雄』で初めて見つけたとき、すぐに思い出したのはこちらの物語でした。
読んだことのある方はたぶん同様に、自然と頭に浮かんでくるのではないかと思います。
映画『ロード・オブ・ザ・リング』の原作、あの有名な『指輪物語』の前に著された『ホビットの冒険』です。
(ご存じの通り、『ホビットの冒険』も『ロード・オブ・ザ・リング』の後に映画化されています)
『ホビットの冒険』の原題は、The Hobbit, or There and Back Again で、There and Back Again の部分が「行きて帰りし物語」と訳されています。
作者のトールキンは、続編として執筆した『指輪物語』の序章でこのように説明しています。
この『ホビット』という物語は、この世に名の知られるにいたった最初のホビットであるビルボ自身によって書かれ、ビルボ自身によって「行きて帰りし物語」と名づけられた赤表紙本の最初の数章が底本となっている。この題名は、ビルボの東への旅と、そこからの帰還が語られているからである。
(引用文は1992年版より)
『ホビットの冒険』も『指輪物語』も、無論『スター・ウォーズ』も、このブログ内で登場したほかの物語たちも、どれも常識だけでは語り切れない、現実世界を逸した壮大な冒険活劇です。
『100分de名著 千の顔をもつ英雄』にはこのように記されています。
共通のパターンとは、「主人公が日常から非日常へと旅立ち、そこでいくつもの試練を超え、宝を手に再び日常へと帰還する」という物語の構造で、(略)英雄神話の一連の流れを整理したのが「英雄の旅」の理論です。【佐宗邦威】
さらにこう続いています。
「英雄の旅」のモチーフは、神話に登場する英雄が直面する(異世界も含む)遠い世界の冒険ですが、それは実は、人間の「内面的な成長」の過程と捉えることができるのです。【佐宗邦威】
河合隼雄先生が様々な場面で語られた、「自分の物語を生きる」という一文が思い起こされます。
近代人は「神話」を嫌い、自然科学によって世界を見ることに心をつくしすぎた。これは外的現象の理解に大いに役立つ。しかし、神話をまったく放棄すると、自分の心のなかのことや、自分と世界とのかかわりが無視されたことになる。世の中に、物語をまったく持たずに生きている人なんているのだろうか。【河合隼雄】
合わせて、ジョーゼフ・キャンベルが『千の顔をもつ英雄』の序文で述べている内容です。
(略)最初に学ばなければならないのは象徴が何を表すかということに関した決まり事で、この謎を解く鍵としては、精神分析ほど最新の方法はないと思う。(略)次は、神話や民話を世界中からたくさん集め、象徴に自らを語らせることである。そうすればすぐに類似点が明らかになり、そこから、人が地上で何千年も暮らす中で土台となった基本的な真実が、広大で驚くほど一貫した内容であることがわかってくる。
「行きて帰りし物語」が、決して、活字やスクリーンに登場する“ヒ−ロ−”のみに限らないものであることを念頭に置き、『100分de名著 千の顔をもつ英雄』の放送やテキスト、『千の顔をもつ英雄』でその意味への理解を深められれば、今まで親しんできた、もしくはこれから出会う作品や、なにより一番大切であろう自分自身の「物語」を振り返ることに導かれていくのかもしれません。
佐宗邦威『NHK 100分 de 名著 キャンベル『千の顔をもつ英雄』 2024年 7月 [雑誌] (NHKテキスト)』NHK出版(2024-06-25)
J.R.R.トールキン『ホビットの冒険 (全1冊) (岩波少年文庫)』岩波書店(2021-12-23)
J.R.R.トールキン『最新版 指輪物語1 旅の仲間 上 文庫』評論社(2022-10-19)*実際の引用書は1992年版
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