Aya Sophia Interior /
Alastair Rae

「万学の祖」といわれた偉大な哲学者アリストテレス。
この名を聞いたことのない人はまずいないでしょう。

このアリストテレスが第一哲学と称する『形而上学』という著述があります。
そこでは、いわゆる「存在」に関するさまざまな問題が扱われているわけですが、
「形而上学(metaphysics)」という言葉は、アリストテレスの数々の著作を編集する際、
「自然学関係の諸巻(physica)」の後に置かれた諸巻という意味で作られたとされる
“metaphysica” がもとになっているようです。

meta は超越を意味しますので、“metaphysica” とは自然を超越したもの、「超自然学」を意味します。
自然の背後にあるもの、いわゆる“あちら”の世界についての学問。
(自然と訳される physis は、そもそも「生まれ出たもののすべて」を意味します)

深層心理学的に、ちょっと大胆に言ってしまうと、
“無意識”にあるものの探究、と言い換えることもできるのではないでしょうか。

この『形而上学』について、アリストテレスはまた、「ソフィアをあつかう学」とも称していますが、
ソフィア sophia とは、ギリシア語で「知恵」を意味することを鑑みますと、
ソフィアをあつかう学(第一哲学)とは、われわれの 「存在根本についての知恵に関する学」 であり、
「万物を動かす原理である不動の動者、神(と呼ばれる存在)を探究する学問」であるといえます。


西洋世界において意味深い「ソフィア」の存在について、ユングはあくまでも心理学の観点から、
男性の無意識に存在する、“高次のアニマ”であると述べています。
* アニマとは男性の無意識の中に存在しているとされる、普遍的な女らしさの元型。ソフィアは第四段階の叡智のアニマ。
(ゲーテの『ファウスト』における)「永遠にして女性的なるもの」(ソフィア)は
錬金術の≪智慧≫を具現化したものとして登場する。

ソフィアは、(中略)「楽園の」あるいは「神的な」人間、すなわち「自己」である。


転移の心理学
転移の心理学
著者:C.G. ユング
販売元:みすず書房
(2000-10)








また、前回記事で書いたグノーシス主義では、『旧約聖書』で「最初の人間」とされている
アダムとイブに、2人が“無知の闇”に閉じこめられていることを知らせるため、
智慧の女神ソフィアがヘビを遣わしたとされています。

『旧約聖書』において、知識の木の実を食べるようそそのかした悪魔の使いとされるヘビを、
グノーシス主義では礼拝の対象としていたのです。

(正統派キリスト教、異端派グノーシス主義における、“ヘビ”のこのアンビバレンスな捉え方も、
今日は触れませんが、非常に意味のあることです。
ちなみにユングは、自分の心の深層に導いてくれる存在として、緑のヘビを描いています。)


私たち人間は、自我が芽生えてこそ、他者の存在のみならず、自分の“存在”をも
認知できるようになります。
“無知の闇”(無意識)を抜け出してこそ、「人」となるわけです。
(赤ん坊が幼児に成長する過程を見ていると、それがよく分かります。)

闇を完全に光で満たすことはもちろん不可能ですが、そこに何があるのか、
少しずつ明かりを灯していくことこそ、「ソフィアをあつかう学」につながるのだと、
私には思われます。


「人間の肉体に閉じこめられて解放をまっている『霊魂』『本来的自己』『光の粒子』」
である、グノーシス主義における女神ソフィアを、ユングが解釈したように、
私たちのこころの深くにある「自己」と考えると(この場合はあくまでも男性心理からの視点で、
ユングは、アニマとセルフを同一視している部分があることが研究者によって指摘されている)、
やはり、わたしたち人間一人ひとりが、
自身の“無意識の声”を聞いていくこと、“認識(グノーシス)”すること。
そして、“無知の知(闇)”の自覚を出発点に、“ソフィア(叡智)の救済”へ努めることは、
たとえそれが終わりのない道であっても、とても意味のあることなのです。

それは、以前のブログで書いた「ホントの自己実現」の生き方と同義です。



西洋のおとぎ話では、王子様が「閉じこめられたお姫様を救出する」お話がよく出てきますが、
そのようなテーマが古くから多くの人の心を揺さぶり、言い伝えられてきたことも、
深層心理学的に解釈すると、納得できそうですね。
それは、私たちの生の「本来の課題」を表しているわけですから・・・。


【参考文献】   
竹内 昭 『哲学案内 梓出版社 (2004-04)
筒井 賢治 グノーシス (講談社選書メチエ)』 講談社 (2004-10-09)
山中康裕監修 ユング心理学 (雑学3分間ビジュアル図解シリーズ)
 PHP研究所 (2007-02)
        

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